フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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何、と聞かれて、瞬時に映画のタイトルだと思えなかった自分は、朝佳との距離の事ばかりを考えている。 邪な思考を悟られない様に「天使にラブソングを」と呟くと、朝佳は小さく「そう」と言った。 はじめの映画紹介を飛ばすことなく流しながら、目の前にあるペットボトルの水量が、半分以上残っているのを知った。 「朝佳、もう少し飲んどけ」 「はいはい」 テーブルの上から奪うように取って、朝佳の手の上に差し出す。また面倒臭そうな声が聞こえていたが、この際無視することにした。 本編にはまだかかりそうだ。ちらりと確認して一度ソファを立った。 俺が立つと、朝佳が見あげてくる。 その瞳に「便所」と言い放って、寝室に向かった。 寝室のドアを開けると、濃く朝佳の香りが馨る。 自分に染みついたキホの匂いや煙草の匂いはすぐに分からなくなるくせに、朝佳の匂いはどうしてここまで俺の思考に焼きつくのだろうか。 ぐらりと揺れる邪な思考を無視するように服を脱いで、クローゼットを開けた。 チェストの一番上の引き出しから適当にシャツを取り出して広げると、去年行ったフェスで無意味に購入したバンドティシャツが出てきた。
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