フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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こいつは、本当に分かっていない。 掛けられた毛布は、しっかりと俺と朝佳の足を覆っていた。 小さく右耳に入ってくる言葉が甘い。 熱にやられて熱くなっているのか、それとも前々からそんな甘ったるい声を出していたのか、わからない。わからない方が良い気がした。 横を振り向いたら、何かが壊れる予感がしていた。 ここで、自分の何かが壊れて、そのまま破壊衝動に駆られる気がする。だから、振り向きたがる体を無理やりにテレビに戻した。 ようやくオープニングが始まって、小さく息を吐いた。 こいつと居ると、俺はあの日に見たクソ男と同じことを仕出かしそうで頭がおかしくなりそうだ。 少し冷静になった瞳で横をちらりと盗み見ると、朝佳は真っ直ぐに映画を見つめている。 その視線は、いつだって物事を真っ直ぐに捉えていた。俺のようなねじまがった存在でさえ。 朝佳が髪を耳に掛ける。その仕草によって、右耳に刺しこまれているピアスが見え隠れする。 それが敦賀と同じものだとしたら、俺は何を言うのだろう。敦賀に言伝てられたことを平然と忘れたようなふりをしてここに座る俺は、あまりにも浅はかすぎる。最低だ。 視線をテレビに戻して息を吐く。 考えるのは、もうやめた方がよさそうだ。朝佳はまだ眠る気配もない。とりあえず、こいつが眠るまでは映画に集中しようと決めた。
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