フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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不在着信166件。ディスプレイに表示される件数に尋常じゃない感覚が襲ってくる。 166回。 朝佳が最後にスマホを確認してからどれだけの時間が経過しているのだろうか。一つ分かっていることがある。昨日、俺は初めて朝佳からの電話を受けた。それはつまり、朝佳が昨日、確実にこの携帯を確認していたことを表している。 思考している間に画面はブラックアウトして、俺の感情だけを置き去りにした。何だこれ。何だ、これ。 俺は、まだ、朝佳のどの部分にも、触れられていないのかもしれない。 問いかけるのも違う気がした。 勝手に見て、勝手に責めるのは違う。朝佳が俺を頼らなかったとして、それは朝佳の落ち度ではない。 ただ、俺が朝佳にとってその程度の人間であるだけだ。分かっているのに、俺は勝手に脳みそを鈍器で殴られた様な気になった。 どうしてこんなことになっているのだろうか。朝佳は、何を背負っているのだろう。 そこまで考えてはっとした。朝佳だけじゃない。俺の電話番号も誰かの手によって勝手に流されている。 寝室に向かいかけていた足を戻して、テーブルの上に無造作に置かれているスマホを手に取った。それを確認して、さっきの藤のメッセージ以外何も連絡が来ていないのを見た。 力が抜ける。 俺が電話を受けた相手とは違うということだろうか。それともこれから鬼のように連絡が来るのか。 胸糞が悪い。
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