フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「あ?」 「言い忘れたけど、ありがとう。レポートの提出も、服も、ここに置いてくれることも、他にもあるけど、頭回んなくて全然お礼、言えてなかった」 ごめん、と最後に付け足されて、思わず息を止めていた。 睫が緩慢に動く。 朝佳の動作はいつでも気だるげだ。どこか、慣れや疲れが漂っていた。 苦労が伺える瞳は俺を掴んで離さない。 俺のここまでの行動は、すべて、礼を言われることでも、謝罪を入れられることでもなかった。所詮それは俺のエゴでしかない。 「お礼に俺の手でも握ってよ。それでチャラにしてやってもいいな」 「嫌です」 「はは、釣れねえ」 「だいたい、それやって何になるの」 「俺の精神がしあわせになる」 「気持ち悪い」 「有難きお言葉」 適当なことを言って、笑った。 手くらいなら握ってくれるんじゃないかと期待する俺は、酷く健全な男だ。 あきれ顔の朝佳と、一瞬視線が絡む。 もうこいつが眠るまで、俺は朝佳の顔をじっと観察していたらいいのかもしれない。そっちの方がよっぽど暇つぶしになりそうだ。 「今度、何かさせて」 「礼も謝罪もいらねえよ。前にも言ったろ? 俺が勝手にやってんだから、お前は勝手にやられてろ」 「あんた、頭可笑しいよ」 「俺も最近知った。全部お前のせいだよ。どう責任とってくれんの」 「何で私のせいなの」 「鈍感で頭痛え」
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