フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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映画を真剣に睨んでいる朝佳にちょっかいをかける。頑なに振り向かない朝佳の顔の前に頭を出して、真正面から、綺麗な顔立ちの女の眉が寄ったのを見た。 朝佳の嫌がる顔を見慣れた俺は、これくらいのことでは怯まなくなっていた。 「ちょっと、邪魔」 「全然集中できてねえくせに」 「誰のせいで……」 「俺のせいだろ」 俺のせいで、思考が乱されてしまえばいいと思う俺は、優しい男ではない。   もしかすると、狡いとかいう判定基準に触れているのかもしれない。 ため息を吐いた朝佳は、顔を出した俺を睨んで、すっと俺の胸に触れた。 柔らかく触れられた手に従うように体をソファの上に戻して、尋常じゃないくらいに脈拍数が上昇していることを、知らん振りしている。 言葉すらも奪われて、ただ朝佳の顔を見つめた。   ほんの束の間だった。それでも朝佳は俺の体に自ら触れた。 ただそれだけの癖に、ここまで感情を乱されている俺は、結局のところ、主導権を朝佳に握られている。 急激な眩暈が襲って、茶化す言葉すら失う。 まずい、と思うくせに、瞳は朝佳に囚われていた。 本当に、早く寝てほしい。無自覚に煽られて、俺はこいつをどうにかしそうだ。それだけは、どうしても避けたい。 俺は聖人君主でも何でもない堪え性のない男だ。朝佳はそれをわかってやっているのだろうか。
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