フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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拒絶だろうか、と身構えている俺は案外傷つきやすい男なのかもしれない。 肯定も否定も聞かずに、力の入っていない指先に勝手に触れて、勝手に放すことを拒否している。 「怖い夢、見ねえように、手ぇ繋いでてやるから」 「そっちこそ、私の事弄んでるくせに」 「人聞き悪いな」 呟きながら、逸らされた視線に一笑する。 ぎりぎり拒絶されていない。これくらいのことで安堵する俺が、朝佳を弄べるわけがない。 鈍感女は何度でも俺を絶望させてくれる。 今度こそ映画に集中し始めた俺たちは、右手と左手だけがつながっていた。 妙に熱くて、痒い。 精神は全て朝佳に持って行かれているくせに、相変わらず俺は知らないふりをしている。軽く指先を撫でると、柔らかに手の甲を抓られる。 視線は映画に向かっているくせに、俺の思考は、全て右手に注がれていた。 映画が終盤に差し掛かったところで、右肩に朝佳がぶつかってくる。それを柔く受け止めて、眠りに落ちたらしい朝佳を見つめた。 さっき見たよりは、顔色が良くなっている。 瞼は綺麗に閉じられていて、寝息が聞こえてくる。 しっかりと俺の手に握られたまま眠ってしまったらしい朝佳は、今日も花の匂いを香らせている。 酷く芳しい香りだ。俺の感情を暴力的に揺さぶってくる。
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