フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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ベッドに運んでやりたい気持ちと、このまま朝佳の熱い体に触れられていたい邪な感情が鬩ぎ合う自分がいる。 「お前のせいだろ」 小さく呟くと、朝佳の指先が、俺の指を握ったような気がした。 こいつは全然わかっていない。だからこそ、猛烈に惹かれている。 横を見ると、小ぶりな耳に黒いピアスが主張している。それのもう片方を持っている男も、俺と同じようにこいつに感情を振り回されているのだろうか。 弄んでいるのは、やはり朝佳の方だろう。 こんなふうに無防備に男の家で寝て、信頼されているらしい俺は笑うしかない。 名残惜しいくせにあっさりと指先を離して、朝佳の眉が寄ったのを見た。起きるだろうかと思ったが、気配はない。 それに安心して、俺に寄りかかっていた朝佳の体を静かに持ち上げる。男に触れられたくないだろうことは知っているが、これ以外に方法はない。 ほんの少し我慢してくれよ、と肺の奥で一人ごちては寝室のドアを開けて、朝佳をベッドの上へと下ろした。 「ばーか」 朝佳のせいで独り言が増えたらどうしてくれよう。 すやすやと眠っている朝佳の髪を勝手に撫でて、勝手に笑った。
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