フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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意識がないこいつになら簡単に触れられるくせに、こいつの視線が俺を捉えると、どうしてもできなくなる。 俺を振り回してめちゃくちゃにして、揺さぶりをかけてくる女。それが、こいつだ。 眠っている間にキスでも仕掛けてやろうかと顔を近づけて、すぐにやめた。 俺も随分と律儀な男だ。こいつといると、無駄に影響を受ける。 布団を朝佳の体にかけてやって、もう一度髪を撫でた。 何度も何の断りもなく触れていることは、墓場まで持って行く秘密にしよう。そう、決意して、朝佳から背を向けようとした。 「朝佳?」 それができなかったのは、シャツの腰あたりに、何かが触れていたからだ。 振り返って、朝佳が眠っていることを確認する。それから、俺のシャツを掴んでいるのが、朝佳の指先であることを知った。 寝ぼけているのか。 新鮮に驚いてから、髪を掻いた。 本当に、振り回され過ぎている。さっさと離れて一服したいと思っているくせに、朝佳の弱弱しい指先を見ると、足は完全にその場に縫い付けられていた。 弄ぶなよ、と一人思考の裏で呟いて、ベッドに腰掛ける。そのまま、掴まれていた指先を、さっきと同じように自分の指に絡めた。 まるでそうあるのが当たり前かのように触れられて、今度こそ眩暈がする。
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