フレンドリスト 「間宮朝佳と38度7分」

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「お前、マジで寝てんのかよ。タチ悪い」 呟いたところで、朝佳からの返事はない。 面倒になって、朝佳の横に、上半身だけをのせて、フローリングに腰を下ろした。 さすがに隣で寝て、明日朝佳を怖がらせるような下手は打ちたくない。 同じ部屋にいて、朝佳は俺を恐れないだろうか。 必要以上に過敏になっている自覚はあるが、どこまでが許容範囲なのか、わからない俺は常に手探りだ。 シーツの上に顔を擦り付けて、朝佳の寝顔を見つめる。相変わらずきめ細やかな肌だ。 黙っていればかなり男にモテそうだが、朝佳はおそらくそんなことに興味はないのだろう。 着信履歴の事も、付き纏いの事も、敦賀の事も、俺は結局何一つ、朝佳に問いただせていない。 ただ手を握って、この場にいるだけしか今の俺にはできそうにない。 明日目が醒めたら、朝佳は今日のことを忘れていそうだ。 俺との会話も、今ここで手をつないでいるわけも、何もかも忘れて、平然と迷惑料として、金を差し出してきそうだ。だが、それに絶望するのは、明日の俺で良いだろう。 とりあえず今は、久々に来た睡魔に身を任せたい。 限界が訪れる束の間に見た己の指先は、やはり朝佳の指に、しっかりと絡まっていた。
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