フレンドリスト 「椎名 藤という男」

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異常だとわかっているくせに、俺にこれを問いただす資格がない。 閉塞感はじわりじわりと俺の喉元を絞めて、緩やかに俺の安寧を奪おうとしている。 いくつかの言葉を思考の海に思い浮かべて、朝佳にどうやってこの密かな事件を暴露させようか考えている。考えているくせに、今の俺が聞いたところで、朝佳が答えを返してくれるとは思えなかった。 一度光った画面は、今は完全にブラックアウトしている。その先に166件の通知があったとして、朝佳はどんな反応を見せるのだろうか。 決意して、ドアを開いた。その先には、つい少し前と何ら変わりない朝佳がいた。 朝佳は俺の気配に気が付くと、気だるげな視線を俺に寄越した。 「ごめん、ありがとう」 「ああ」 弱弱しく差し出される指先にシルバーのスマホをのせて、離す。そうすると、重力に引かれるように朝佳の指先へ落ちて、つかみ損ねた朝佳の指先から零れ落ちて行った。 指先の自由ですら、ままならないのかもしれない。こんな状態の朝佳に、俺は何を聞こうというのだろう。 「持てるか」 「大丈夫」 白いシーツにバウンドしたスマホを持ち上げて、もう一度朝佳の指先に滑らせた。
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