800人が本棚に入れています
本棚に追加
一通りの茶番を終えた慎之介が、おもむろに煙草を取り出した。銘柄がメビウスになっている。当たり前のように指先に挟んで、先端に火を点けた。
「シン、煙草かえたのか」
「ん? おー、貰ったから吸ってみた」
「へえ」
聞いておきながらどうでも良くなって、慎之介と謙太郎が会話するのを見つめる。その先に無数の煙が立ち上っているここは、強制収容所のガス室のようだ。
煙を肺に入れて、ぺらぺらと下半身事情を暴露している男の声が耳にねじ込まれる。
「そんで、またフラれちゃったんだよね」
相変わらず懲りないようだ。こいつの単細胞顔を前にして、それでも股を開ける女の精神を覗き込んでみたい。
朝佳のような女がいる一方で、股間の緩い女がいる世界の不思議に思考が飛びかけた。
「フラれちゃったってか、愛想尽かされたんじゃないの~」
「慎之介、刺さるんだけど……」
「謙太郎にはあれが足りないんだよ」
「あれ?」
「あれ、一途さ。お前だけを愛してる……が足りないね~」
「俺はまだ真実の愛に巡り合っていないだけだ。なあ、ハルチもそう思うだろ?」
最初のコメントを投稿しよう!