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今度こそきちんとスマホを掴んだ朝佳が、当たり前のようにその携帯を操作する。俺は、その姿をじっと見つめていた。
それが朝佳の携帯でないことを願っていた。そんなはずがないとわかっていながら、俺は浅はかにも願っていた。
しかし、現実はそうではなかったし、更に言うなら、朝佳は166件の不在着信を確認しても、眉一つ動かさなかった。
この状況に、慣れているのだろう。
気が付いたとき、俺は自分の内臓がムカついているのを感じる。それが歯痒いという感覚なのだと俺は初めて知った。
メッセージを打ち込んでいるらしい朝佳を確認しながら、勝手に絶望する。
どうしようもなく、遠い。
朝佳がいかにも絶不調そうな声でバイトを休むことを伝えている。その先に居るらしい人間も、朝佳のことを咎めることなく通話を終えていた。
きっとこうして休んだとしても、朝佳が怠慢を疑われることはないだろう。
通話を終えた瞬間に、朝佳の指先からスマホが落ちてくる。よほど体力を消耗したのか、朝佳はぐったりと瞼を下ろしていた。
「朝佳、病院行くか?」
「いい」
「あ?」
気だるげな声で、それでも即答された。どう考えても芳しくないが、病院は行かないつもりらしい。
「嫌いなの……。あそこ」
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