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子どものように顔を顰める朝佳をじっと見つめて、小さく息を吐く。この態度から察するに、病院に行かせるのは至難の技だろう。
どうしたものかと考えているうちに、朝佳はまたベッドから起き上がろうとしていた。
「今度はなんだ」
ため息のように呟いて問うと、小さく「大学」と返される。あまりにも予想通り過ぎる答えに頭痛を感じた。
「4限なら、藤が出席取るから心配すんな」
「きょう」
「あ?」
「レポート提出」
「ガイダンス初日にか?」
「5限、通年だから」
今にも擦り切れそうな声で呟く朝佳に勝手に喉の奥が熱くなる。もどかしくて、どうしようもなくなってくる。
こんなときくらい、何とでもなるはずだ。それなのに、こいつは誰の手も借りようとしない。
それがどうしようもなく、俺の胸をかき乱している。
「メール提出は?」
「不可」
「一緒に取ってるやつは?」
「いない」
絶望的な答えに次の言葉を失くしていると、朝佳がもう一度一人で立ち上がろうとしはじめる。
勘弁してくれ。その体で動かれると、俺の精神衛生がぶっ壊れそうだ。
「動けねえんだから大人しくおねんねしてろ」
「ちょっ、と」
薄い肩を押し倒して、朝佳の体をベッドに沈めた。そのまま布団をかけてやると、朝佳の顔はほとんど見えなくなる。
鼻から下を隠した朝佳は、相変わらず微睡の瞳で俺を見つめていた。
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