第4話 誘惑の毒蜘蛛《タランチュラ》

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「綾ちゃん……」 「美咲。とりあえず部室へ戻ろう」 ボクは涙を流す美咲の背中を優しく支えながら部室へと向かった。 ボク達が戻ると既にみんなが消沈した様子で待っていた。すぐに亜希先輩がボクのもとに駆け寄ってきた。この空気を察するに結果は絶望的なのは伺えた。 「あずっちどうだった?」 「すみません。期待に応えられる成果を得られませんでした」 「そっか…… あのビッチ女が根回しをしているに違いないわ」 「亜希の言うとおりだぜ。教師(やつら)の落ち着かない様子からすると間違いない。これじゃ俺たちの方が不利だ」 「でも綾ちゃんは少なくともそんな感じじゃなかったですよ」 「確かの。ボクも美咲と同じ意見です」 考えないようにしようと思っていたが、どうしても「廃部」と言う最悪のシナリオが脳裏から離れない。 部員の皆は解っているんだ。でもそんな事口には出せない…… まだ何か策はあるはずだ。考えるんだ。策がないボクは唇を噛みしめながら美咲の横顔を見るたびに先輩の要求を受け入れるしかないと僅かばかり感じていた。 でも亜希先輩は…… 「大丈夫よ。私に任せなさい。まだ2日もあるんだから何とかなるわ。大船に乗ったつもりでいなさい」 気丈にふるまう亜希先輩は腰に手を当てながら高笑いして部室を後にした。 「梓ちゃん。俺ももう少し当たってみるよ。とりあえず今日は解散だ」 大輝先輩も後を追うように部室を出て行ってしまった。 「大輝先輩も行っちゃったね」 「美咲。とりあえず今日は帰ろう」 ボク達の足取りは重かった…… 翌日から皆で顧問になっていない先生を手分けして演劇部顧問をお願いすると、 「ご、ごめんなさい。先ほど吹奏楽部の顧問を引き受けちゃったのよ」 先生たちは何故か演劇部の名前を出すと顔色が変わり、足早にボク達の元を去ろうとする。明らかに動揺した口調から生徒会の力が加わっていることは明白だ。 そして残酷にも時計の針はボク達の意に反して無残にも進んでいった。意気消沈したボクたちは部室へ入ると亜希先輩しか居らずいつもと変わらず笑顔で迎えてくれた。
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