温情

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 私の中であなたの存在がどんどん大きくなって、それが嬉しくもあったけど、それ以上に怖かった。だって、あなたに触れられれば触れられるほど、あなた大切にされればされるほど、あなたはいつ私を裏切るんだろうって。そんなことあなたがするはずないって、そう信じたいのに。でも、どうしても信じられないの。  これ以上は駄目って、優しくされちゃいけないって、私の中で何かがそう忠告するの。だから、これで最後にしよう。もう会わないようにしようって、あなたに会う度に考えるのに。  あなたは優しいから。ちゃんと受け止めてくれるから。その優しさに甘えちゃうの。おかしいよね。駄目って言ったり、嬉しいって言ったり。ごめんなさい。でも、私だってどうすれば良いか分からないの。私だってどう思っているか分からないの。あなたのことは大切だけど、あなたに会う度に苦しくなるの。私はこれ以上は堪えられないの。  眠るあなたを起こさないように、そっとベッドを抜け出して、床に放り投げた服を拾い上げる。  ごめんなさい。あなたが悪い事なんて何もないわ。  全部、私が悪いの。他人のことを信じられない私が悪いの。  でもね、1つだけいい?  すごく理不尽なことだって分かってるけど、1つだけだから。  私ね、ずっと冷たくされてるって思ってた。誰も私に優しくしてくれなかった。学校にも、家にも、職場にも、私の居場所はなかった。たぶん皆私のことが嫌いで、大切になんかされない存在だって、そう思ってた。私には生きる意味も、生きたい理由も、なんにもなかった。  でもね、あなたに会って気づいたの。誰も私を大切に思ってなかったんじゃなくて、私が大切にしたいものが何もなかったんだって。  そりゃそうだよね。相手が自分のことを大切にする気なんかないくせに、その人のこと大切にしようだなんて思わないよね。  だからね、いままで私に冷たくしていたと思っていた人たちは、私にとってはどうでもいい人たちだったの。どうでもいいから、なにも私が感じないだけ。それが冷たいことだって思ってた。  あなたは違う。あなたは私にとって、どうでもいい人じゃなかった。だからあなたと会うと、嬉しいって感じるし、苦しいって感じる。私をこんなに喜ばせたのも、悲しませたのも、あなたが最初で最後。  あなたにさえ会わなければ、苦しい事なんてなかったのに。全てを投げ出して、一人何もせず。死にもせず、生きもせず。そうしていければ満足だったのに。 私は身だしなみを整えて、自分の荷物をまとめた。ふと思い立って、自分の財布の中に入っていた全財産を、もう一つの財布にいれた。  「もう、私には必要ないからね」 ベッドの上では、すやすやとあなたが眠っている。その姿を見ているだけで、頬が緩んでしまう。  「全部、あなたのせいなんだから」  本当に、あなたって・・・・・・・・・・・・
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