シャンプーとリンス

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「翌日の心配をする必要がないから、これからは思う存分飲むぞ」 仕事を引退した途端そんなことを言うもんですから、翌日のことよりあなたの身体を心配に思いました。 でも、お酒を飲む量はむしろ減りましたね。 いつでもどれだけでも飲めるとなると、むしろ飲まなくなるものね。 それとも、口には出さないだけで、健康のこと気にしていたのでしょうか。 重い一升瓶を買う頻度が減ったので助かりました。 そう思ったことは内緒です。 そういえば、寝ることも同じでしたね。 「これからはたくさん寝るぞ」 って言ってたのに、仕事をしていたころより早起きになりましたよね。 それなのに、ある日あなたは本当にゆっくり寝てました。 お昼前、私がカーテンと窓を開けると、夏の日射しと暑い空気が入ってきました。 「あなた、そろそろお昼ですよ」 そう呼んでもあなたは起きない。 あなたを揺すると、ふわりとシャンプーの香りがしました。 けれどあなたは目覚めませんでした。 あんなに暑いのに あなたは冷たくなっていました シャンプーの香りを残して お風呂に入り、頭を洗おうと思ったら気づきました。 もう何年も詰め替えで使い続けたシャンプーとリンス。 古ぼけた容器に出来た穴から、シャンプーが流れ出していたんです。 流れ出すシャンプーを見ていたら涙が溢れました。 あれから5年 リンスの容器に まだ穴は空きません
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加