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お仕事⑩ 「ADの由野くん」
僕の仕事はテレビ局のAD。
いわゆる、アシスタントディレクターだ。
仕事は…3K?いや、7Kかもしれない(トホホ)
ゆくゆくはディレクターになるとは言え、
ADの仕事はとにかく体力勝負だ。
残業もまともに付けてしまうと果てしなく
ブラック企業となってしまうので、
途中から夜勤?体制にさせられて
しまうことも多い。
仕事が立て込むと、
いったい何日家に帰ってないんだろう…?と
考えてしまうことほど、
局の中に泊まり込むことも多い。
それでも辞めずにここまで来ているのは
やっぱりテレビが好きなんだということに
尽きるかもしれない。
僕が今担当しているのはお笑い番組だ。
それも、収録ではなく、ライブ形式で
360度見渡せる円形ステージに
実際にお客さんを入れての
勝ち抜きバトルで行う番組で、
審査はネットやテレビを見ている人も参加できる。
視聴率も好調で、
ここで勝ち抜いた若手芸人がブレイクすることも
多く、ちょっとした登竜門のような番組だ。
生放送とあって、時間との闘いもあり
ハプニングもちょくちょくあるが、
それもまた番組の魅力になっているようだ。
「由野〜!準備は出来てるかあ〜!!」
「はい!OKです、吉田さん」
「よし、1組目に声かけて!」
「はい!」
予選の1組目に声をかけるべく、
僕はステージ裏へと移動したのだが…
あれ…??
スタンバイしているはずのピン芸人さんが
そこにいない…!?
僕は慌ててインカムで吉田さんに知らせた。
「吉田さん、ウンギョンさんがいません!」
「なんだと!ばかやろう、探してこい、由野!!」
「は、はい!!」
もちろん出演時間もスタンバイする場所も
知らせてある。なのに、そこにいないとなると…
まだ楽屋なのか??
ヤバい、ヤバい!!
僕はウンギョンさんの楽屋まで走りながら、
インカムで吉田さんに2組目の芸人さんを
先に送り出すことを伝えた。
…あれ?あんなところに…!
楽屋のドア前に座り込むウンギョンさんがいた。
その横に…えっ…!!!
ウンギョンさんに話しかける2人組の姿が…。
それは、真っ白な衣装に身を包んだ、
日本でも大人気の韓国のアーティストだった。
「あっ、あの…」
僕が声をかけようとすると、
「あ、出番ですね!ウンギョンさん、
頑張って下さいね」
「応援してます」
2人はにっこり笑うと
お辞儀をして隣のスタジオへと
入っていった。
「どうしたんですか?出番ですよ、ウンギョンさん」
「あ、すみません。すぐ行きます」
ウンギョンさんは目をこすると、
一緒に歩き出した。
…泣いていたのかな…??
「何か…あったんですか?」
「初めての大きなステージで、
足が固まってしまって…」
なるほど…そうだったのか。
「そしたら、あの人たちが
声をかけてくれたんです…」
「お知り合いですか?」
「いえ!なのに、ガチガチな私を見て、
大丈夫。きっとうまくいきますよ、って
励ましてくれたんです…」
なんか…いい人たちなんだな…。
あんなにスターなのに。
韓国ですでに売れていたのに、日本で
新人としてデビューして、苦労したと
何かの番組で言ってたのを
僕は思い出していた。
隣のスタジオは確か歌番組の収録だった。
そこに参加していたのか…。
いつか、一緒に仕事してみたいな。
「お待たせしました、ウンギョンさん
入りまーす」
インカムで吉田さんに伝え、
ウンギョンさんを送り出す。
楽屋前で泣いていたとは思えないほど
生き生きとしたウンギョンさんのネタは
かなりの得点を上げて見事に1回戦を勝ち抜いた。
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