お仕事⑦「図書館司書の由野くん」

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お仕事⑦「図書館司書の由野くん」

僕の職場は都内のS区にある図書館だ。 大学在学中にある講義を受けるだけで取れる 図書館司書の資格を取ったから、なのもあるが とにかく本が大好きな僕にとって、図書館は 憩いの場所でもあり、休憩室でもあり、 勉強部屋でもあった。 できれば自分の大学の図書館司書に なりたかったが、残念ながら空きがなく、 S区の図書館の司書になった。 近年の図書館は区や市の司書が勤めることは だんだんと少なくなっており、実務レベルの スタッフは委託業者に任せるようになっている。 僕の勤める図書館はS区の職員が半分、委託業者の スタッフが半分の珍しいパターンで、 僕は職員側の司書だった。 なので、僕はカウンター業務等はなく、 主に本の選別や学校の図書館職員との会議、 時々呼ばれるS区の教育委員会に出席する…な 感じなので、一般の会社の内勤者に近かった。 会議や教育委員会はなかなか骨の折れる仕事で、 僕はあまり好きではなかったが、公務員の安定感は 特にうちの親を喜ばせているのもあり、 なかなか辞めるわけにもいかなかった。 この肩書を武器に?母親が最近、 やたらと見合いの話を持ってくるのには 閉口しているのだが…(苦笑) 実は僕には密かに思いを寄せている人がいて…。 開館前の時間、 選書の参考や、教育委員会で推薦する本を探しに 僕はフロアに出て棚の本を探すことが多いのだが、 「おはようございます」 児童書のコーナーで本の面揃えをしている女性が いつも声をかけてくれるのだ。 「あ、おはようございます」 挨拶を返すと、にっこりと微笑んでくれる。 僕はこの女性…あやさんに思いを寄せている。 あまりまだ言葉を交わしたことはないのだが、 挨拶してくれる時の笑顔がとてもステキで なんだか元気が出てくるのだ。 あやさんが委託業者のスタッフで 児童書担当で、週4日勤務していること くらいしか情報はないのだが、 会えると少しずつ会話を交わすようになり、 僕はあやさんのほんわかした雰囲気と笑顔に 惹かれるようになっていった。 ただ…女性に関してはウルトラ奥手な僕。 ここからどうアプローチしていけばいいのか わかるはずもなく、これ以上の発展など 到底望めそうにない毎日だったのだが…。 ある日、事件?が起きた。 それは、夕方からS区の小学校の教育委員会に 参加することになった僕が、その資料を探すべく、 珍しく開館時間にフロアにいた時だった。 「だから、どうしていつまでもないんですか!!」 児童書コーナーに響き渡る怒号。 子供たちも大人もびっくりして固まっている。 僕も驚いて、声のする方向を見ると、 貸出カウンターに泣きじゃくる女の子と その母親の姿があった。 怒鳴り声の主はその母親のようだ。 「申し訳ございません」 何度も頭を下げているのはあやさんだった。 周りを見たが、児童書コーナーに 他のスタッフはいなかった。 僕は急いであやさんのもとに駆け寄った。 「どうしましたか?」 「あ、由野さん…」 僕の顔を見てホッとしたのか、あやさんは 涙目になった。 事情を聞くと、女の子の借りたい絵本が ずっと貸出のままで借りられないらしい。 あやさんは絵本を借りている利用者に 何度も連絡を取ろうとしたが、繋がらず、 絵本はうちの図書館にしか所蔵がないものだった。 本屋にも在庫がなく、母親はブチ切れて あやさんに八つ当たりしたらしい。 その絵本に僕は心当たりがあった。 僕は泣いている女の子の前で膝をついて話しかけた。 「少し待っててくれるかな?」 女の子は泣きながらもこっくりとうなづく。 「少し破損していて、棚から引き上げているものが 事務室にあるので、補修して貸し出せるか、 確認のお時間をいただけますか?」 「どれくらいかかりますか?」 僕は胸ポケットの手帳から 図書館の1階にあるカフェのドリンクチケットを 2枚取り出して、母親に渡した。 「ここでお待ちいただけますか?」 「あ…ありがとうございます」 母親も怒鳴り散らしたことが 恥ずかしくなったのか、女の子の手を引いて そそくさとカフェに向かった。 「由野さん、ありがとうございます…!」 「いえ、大変でしたね…」 そこにあやさんの上司が駆けつけてきた。 僕はコトの経緯を話し、 「斎藤さんに絵本の修理を手伝ってもらっても 大丈夫ですか?」 「はい、大丈夫です。ここは私が代わりますので」 上司に承諾を得て、あやさんに声をかけた。 「絵本の修理を覚えてみませんか?」 「はい…!!」 あやさんのこぼれるような笑顔に 僕は心の中で200回くらいガッツポーズをした(照)
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