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お仕事⑨「ホテルマンの由野くん」
僕の勤めるホテルは、都内のM区にある。
元は海の上だったところを埋め立てて街自体を
作った地域なだけに、
海に囲まれたこの街は、どこか異国のような
リゾート地の雰囲気を醸し出している。
海外のホテルグループと提携していることも
あって、海外出張の外国人も多く宿泊している。
僕の仕事は「バトラー」
名前の通り、執事のように
宿泊客のサポートをする業務だ。
どちらかというと、引っ込み思案で
大人しい性格の僕が、なぜホテルの表舞台での
ポジションに就けているのかと言うと…
「由野くん、ブラポル語のお客様なんだけど、
お願い出来るかな?」
インカムにフロントチーフのあやさんの声が
飛び込んでくる。
「1820号室のホセ様ですね」
「もう知ってるんだ、さすが」
「チェックイン後、すぐにバトラーデスクにお寄り
いただいてますので…」
「いつも助かるわ、ありがと、由野くん」
そう…僕は英語以外に5カ国語ほど話せるのだ。
しかも、ブラポル語・インパキ語・ベンガル語、
後はスワヒリ語とヒンドゥー語と、
かなりマイナーな言葉ばかりなので、
バトラーの仕事以上に通訳の仕事が
多かったりする。
「由野くんはどうして
珍しい言葉ばかり話せるの?」
あやさんに以前聞かれたことがあった。
「それはですね…」
理由は、僕の大学の男子寮にある。
僕の大学はグローバル化を目指していて、
海外からの留学生を数多く受け入れている。
留学生たちはみんな寮に入っていて、
さまざまな国の人たちと簡単に交流ができるのだ。
最初に仲良くなった留学生はブラジル人で、
彼に日本語を教える代わりにブラポル語を
英語で教えてもらい…、
そのブラポル語をパキスタン人の留学生に
今度は僕が英語と日本語で教え、
代わりにインパキ語を教えてもらい…と、
なんだかいろんな言葉を覚えた僕は
いつのまにか5カ国語をマスターしていたわけで…。
言語は、頭の中の「変換」の速度が
上達の秘訣でもあるのだが、
いくつもの言語を覚えるうちに、
僕の頭の中は言葉の変換速度がかなり速くなり
同時通訳のように言葉を出せるようになった。
おかげでこのホテルのバトラーになれた。
そうしたら、引っ込み思案な性格も
なんだか前向きな方にシフトチェンジしてきた
ようで、周りからも生き生きしてるね、などと
言われ始めた僕は…。
カウンターにホセ様がやって来た。
「由野くん、これから商談なんだが…」
「タクシーの手配でございますか?」
「ああ、1台頼む。それと、夜に何か良い店を
教えてくれないか?」
「お寿司はどうでしょう?」
「いいね。ただ、少しフランクな店が
ありがたいな」
「かしこまりました。では、
美味しいお寿司を提供できる居酒屋が
ございますが、予約致しましょうか?」
「おお!イザカヤ!!ブラボーだな」
「かしこまりました。何名でご利用でしょうか?」
「3名で頼む。ああ、楽しみだなあ」
お店に予約の電話を入れる僕の耳に、再び
あやさんの声が飛び込んでくる。
「由野くん、ごめん!またお願いできるかな…」
僕の目にこちらに向かってくる人が見えた。
「ベンガル語のお客様ですね。かしこまりました」
「助かるわ!今夜は私に奢らせてね」
「楽しみにしてます、あやさん」
そう…この特技のおかげで
僕は最高の恋人をゲット出来たわけで…。
う〜ん、頑張るぞー!!←単純
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