君が眠る骨の海【ネフィリム】

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「来て欲しい」と 手紙を残して彼女は消えた。 冬の海へ身を投げて。 彼女からの手紙は今も鞄にある。 交わした言葉の数なんて、 湧き上がる泡ほどもない関係。 私の心は靄に囚われた。 応えなかったせいで、 自分の責任だったのでは、と。 約束の防波堤。 荒む海風に髪とスカートを抑える。 彼女の鞄だけが見つかった場所。 押し潰されそうな曇天に、 呑み込まれそうな海原に、 彼女は身を捧げたのだろうか。 耳も指も太ももも痛い。 それでも動けないのは恐いから? ここに答えを求めているから? 手紙の理由。 逡巡を重ねても辿り着かない。 彼女のことがまず未知だから。 分からない、 判らない、 解らない、と 絶え間ない雫が心に落ちて 片隅から縁まで満ちて 駆り立てるように溢れた 無から無限を生み出したような 支配された感覚 もしかして これが目的だったのかもしれない 彼女の存在は今や途方もなく大きくあった 吹き荒ぶ空に腕を引かれ うねり立つ海に脚を掴まれ 消波ブロックが骨となり 私は彼女に呑み込まれた 手紙を鞄の中に残して
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