家に住んでいた知らないケモノ

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普段よりも早い下校に気分がいい。 学校の都合で昼休みが終わってからの下校になったため、午後はマルっと自由になった。 この後どうしようか、なんて悩みながらとりあえず帰宅して家を出ようと思った。 普段の通りにドアを開ける、がどこか違和感があった。 「あれ?誰かいるのか?」 玄関にある記憶にない靴、家のドアが空いても声がない母、普段と違う家の空気があった。 気にしてもいられないと思いつつ、家の中に入る。 自分の部屋がある2階に上がると獣のようなうねり声が聞こえた。次第に声は甲高くなっていき、艶があるように感じられた。 息を殺して声のある方に向かうと、父母の寝室で僕の知らない男と抱き合っている母が視界に入った。 物凄く気分が悪くなり、足音をたてないように家の外に逃げるように出た。 背中から冷たい汗が流れ続ける、変な動悸が止まらない、一刻も早くここではないどこかに行きたかった。 きっと全部夢で、疲れてるだけだと信じたかった。 夜になるまであてもなく街を練り歩いた。周りに移る景色に色が消えて見えて、雑音だけが凄く耳に大きく響いた。 気分は全く優れず、気が晴れない、この事実を父にどう伝えようか、その考えが頭によぎると家族の崩壊が浮かびそれを避けるべきか考えてしまう。 「どうしろってんだよ!」 思わず大きな声をだしてしまう。 少し冷静になって周りを見るとよく見知った顔を見かけた。 「父さん?」 街中で父の姿が見かけたので声を掛けようか悩んだが、父の隣に見知らぬ女性がいた。 嫌な予想が浮かんだが 「いや、仕事の関係だろ」 そう結論付けたが、街中から外れていくように二人は歩いていった。 父を信じたいと思い、二人の後を追った。 僕の期待を裏切るように彼等はホテルの中へ消えていった。 今までの家族の記憶が走馬灯のようによぎった、でもそれら全てが偽りだったらと思うと何も信じられなくなった。 その日は家に帰る気にならず、友人に無理を言って泊めてもらった。 母に連絡を入れたが特に疑うことも無く「今度から急に言わないでね」と返された。 それは子供の心配からなのだろうか?男といる時間を作るために早く言って欲しいのでは無いのだろうか? 母の言葉に裏を探るようになってしまった。 翌日何事も無かったかのように、母は「おかえり」と言ってきた。 父も「昨日は楽しかったか?」なんて呑気に聞いてくる。 両親が人ではない何かに見えた。理性と知性を持った欲にまみれ、愛に飢えたケモノに見えた。 家の中に僕の知らない化け物が二匹住んでいた。
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