錆びた鍵を失った

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錆びた鍵を失った

「……おいおい、マジかよ、まぶしいな。ナァ……、ドアは、閉めろよな……。オレのオタカラの、古いフィルムが感光したら困るだろ。 閉めたかい?ヨッシ。ありがとな、恩にきるぜ。なにせ、オレ、ソリッドシチュエーションにしか生きていられないからさ。 ソリッドシチュエーションな……。 たしか、最近になって作られたジャンルワードだよなァ、コレ。あの、ノコギリネタくらいからスターダムみたいに見えるよなァ、このジャンル。んー。 いいか、まずはオレのロマンについて語るぞ。うん、オレ専用の。ちなみに、この、地下室もオレ専用だからね……。いいんだ、気にしなくても。道に迷っていそうだから、しばらくは貸してあげるよ……。いいんだ、気にしなくても。なかば、善意みたいなものだから。 まあ、後はオレのロマンについてを聞いてくれれば、貸し借りはチャラさ……。オアイコだ。 ノコギリネタのはジャンル的には密室劇と呼べるくらい劇的に起承転結がはっきりあったよな。ついでに、ツーからはキャラクターモノのカテゴリだ。博士シリーズとか、ヒーローシリーズとかの。で、だったらこの、ソリッドシチュエーションを当てはめて説明する必要なんてないだろ、違うか? オレが考えるに……。ノコギリネタのは、劇的な密室劇だ。んー。ちなみに、電話ネタのも、あれも密室劇だ。こういう、抑えていたパワーが最終的には外側に向かって爆発するストーリーラインは、そもそも、密室劇以外の他のジャンルに言い換えたって構わない。ある種のドラマ的だし、ほら、もっと広義にはサスペンスだってあるわけだけだろ? 密室がキライなのかって?いいや、オレはむしろ、スキだよ。ここみたいな、配管だらけの密室とか、発電機つきの地下室とかは特に。なんだかワクワクするよな。いまは真暗だけどね。ああ、ヒューズはココだ。オレが持ってるよ、心配すんな。使いかたなら知ってるぜ……。 ……おい、脱線してしまいそうだったぞ。……危なかったな。オレが言いたいのはさ、ソリッドシチュエーションのなにがソリッドシチュエーションらしいかって話なんだよ。そもそも、どんなのだったらこの、ソリッドシチュエーションを使って説明できるかについて考えてみろよ。 いいか、まず、ノコギリネタのは劇的な密室劇だったとしたらが前提だ。ちなみに、デスゲーム系のストーリーラインもコレだ。劇的なまでに、最初から解決への方法が明示されているわけだからな。逆転の推理といっても構わない。 ……おい、いまのギミック音はなんだい?ビックリさせるなよな。ただでさえ、ソリッドシチュエーションで、息苦しいんだからよ、オレは。ここはもともと、二人用ではないからね。酸素濃度が低くなっているんだよ。わかった、わかった、ロマンについてはここまでな。オレが出力しすぎて酸素がなくなったら大変だもんな。 いいか。肝心なのはここからだ。でな、もしも、こうして、ノコギリネタのをソリッドシチュエーション以外のジャンルから説明できたとする。すると、この、新しいジャンルワードとして発明された、ソリッドシチュエーションは手持ちぶさたになるわけよ……。 だがな、心配するこたない。おい、もっとコッチこいよ、コッチだ……。そこの、キープアウトのテープにはつまずくなよ……。さあな、誰かのイタズラだろ、深い意味はねえさ、遠慮するな、コッチだって……。 ほら、例えばさ、クールなのは映画『フリーファイヤー』だ。最初からまるくおさめるための物語ではない。あの映画はどうやって、不毛な状況を造り出すかに終始徹する、まるい終わりかたはしたくない、起承転結の承を探究する者のための映画だと、オレは思うんだ。いわば、抑えていたパワーが内側に向かって暴発するのがコレよ。ソリッド・シチュエーション。 そうだな、他にも、潜水艇で深海にもぐったら、水圧に潰されそうになっている場面を引用してみるか。あれは、映画『アビス』のワンシーンだったかな。本編はもちろんの傑作だが、オレは冒頭から結末までをトータルで観た回数よりも、あのシーンだけを観まわした回数の方が多いくらいの、ソリッドシチュエーション好きなわけよ。だが、アニキたちはもっと、筋金入りなのもいるからなァ……。ああ。もうな、『握りしめたバクチク』のフレーズに本気で反応しているからね。いまのオレには難しいや。 だだ、言えるのは、映画『アビス』の潜水艇のシーンくらいの圧迫感で、全編を進めてしまえるのが真のソリッド、つまりは固だと思うのさ。いわば、本来ならば潰れてしまうほどの水圧がかかっているのに、配管のリベットが吹き飛んでいても、それでも進み続けられるほどの固さなわけだ。 んで、起承転結の起こりになぞらえて、後はシチュエーション、つまりは状況を冒頭にひっつけてできるのが、まさに、ソリッドシチュエーションらしいと思うわけだよ。んー。 ああ、ソリッドシチュエーションとはまさに、起承転結の承を探究するためのジャンルであるべきだと思い始めてね、オレはさ。極論的には転はおとずれて欲しくないとすら感じるときもあるよ……。ずっと、水圧をかけ続けて欲しいし、それに耐えて欲しくもあるだろ。それが、ソリッドシチュエーションの醍醐味だと思わないか?な、だろ?けど、物語である以上、そこには始まりと、終わりが必定だよな、悲しいけどさ。転はともかくな。 けどなァ、オレはさ。映画『フリーファイヤー』にもしも、永遠に転結がおとずれなかったら、きっと、オレも永遠にモニタのまえにいたんだろうな……。ソファのクッション抱えながら、体操座りでさ。だから、ここにもいなかったかもしれない。うん、ここには。あー?何故、こんな話をするかって? おうよ、それを聞いてくれてありがとうよ。……これで、起承転結の起こりは説明したからな。ヨッシ、ここから先はオレサマの、ハッピータイム、起承転結の承の時間ね。そのまえによ……。どおれ、その散弾銃をオレに貸してくれないかい? アメリカ製か?弾とか、つめてあるのかい?いいね、だったら、まさにいま薬室はソリッドシチュエーションな感じがするよな。……おい、すこしオレに、貸しておくれよ。その散弾銃……」
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