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「智弥はね、エマさんがいなくなったことをいちばん分かち合える相手だよって。エマさんが命をかけて、貴方に遺してくれた、貴方を愛してくれる大事な家族だから。エマさんの宝物は貴方の宝物でもあるでしょって。……だから、ひとりにしないであげてって」
家族に絶縁され、独りぼっちの光希の言葉だからこそ胸により染みてくる。
「颯さん、智弥を連れて行くか迷ったみたいなんだけど……多分、智弥は行くって言わないだろうから。相談して、和鷹さんを説得することにしたんだ」
「……」
はああ、と脱力して智弥もソファに座り込んだ。脚に肘をついて顔を埋める。
「おせっかいで、ごめん。勝手に自分と重ねちゃって……迷惑だったよね。でも、俺……智弥の役に、立ちたくて」
だから、なんでそこまで。……俺のために。
「颯さんも言ってたよ。智弥も二十歳になったんだから、もう父親の呪縛から解き放ってあげたいって」
「呪縛……」
そうなのかもしれない。今まで思い込みという茨の檻に囚われて、身動きしようともせずに、やがて諦めてしまっていたのかもしれない。
もっと、和鷹と話をすべきだった。お互いを知る努力をすべきだったのだ。
顔を見たくないと言われようが、避けられていようが。自分もまた、面と向かうのが怖くて逃げ続けていただけだった。
――そのことに光希が気づかせてくれた。
たとえどんなに痛くても。茨が体中を突き刺そうとも。
ふと、昔読んだお伽話の挿絵が思い浮かんだ。茨に囲まれた城で眠っている王女。
――誰が眠り姫だよ。
自分で自分の例えがおかしくて、口元が緩んだ。
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