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「うごいてないね」
突然後ろから声が聞こえ、振り返ると幼稚園児くらいの女の子が立っていた。何だろう、と首をかしげると女の子は俺がつけている腕時計を指さす。
「これ?」
しゃがんで女の子に目線を合わせ、女の子にも見えるように時計を目の前にかざす。
「うごいてないね」
「これ壊れてるんだ」
「こわれると、うごかないの?」
「動かないよ」
この時計は父さんの形見だ。アンティークで中がかなり複雑な造りになっているらしく、普通の時計屋に持っていったら職人じゃないと直すのは無理だろうと言われた。時計はスマホを見れば事足りているので、まあいいかとそのままにしている。父さんが死んでからずっとつけてきたので、壊れていてもなんとなくつけていたかった。
女の子はふうん、と言ってそのまま走り去っていった。親の姿は見当たらない。なんだか不思議な子だな、と思った。
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