うごいてないね

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「うごいてないね」  その女の子に再び会ったのはおもちゃ屋だった。甥っ子が4歳になるので、誕生日プレゼントに何を買おうかと来てみたのだが。あの時の女の子に間違いない。  女の子が見ていたのは、動く犬のぬいぐるみだった。柵の中でじっと動かずにいるのが不思議だったのかもしれない。 「これは動くよ」 そう言って、手をパンパンと叩く。するとぬいぐるみはわんわん、と音を発しながら俺の方に近寄ってきた。 「これは音を鳴らすと動くんだ」 「なんで?」 「なんで、かあ。この子は音がしたときだけ起きるんだ」 「ふうん」  そういう設定だから、というより子供に通じる言葉を選んで伝えてはみたが、伝わっただろうか。女の子は納得した様子も不満な様子もなくじっとぬいぐるみを見つめていたが、またどこかに行ってしまった。この間会ったのも高校からの帰り道だったし、この辺に住んでる子なのだろう。
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