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居間のテーブルに置かれたたくさんの写真。母さん、兄貴家族、俺の家族。嫁さん、子供たち、友達、孫たち。写真を見るといつどこで撮った写真なのかを鮮明に思い出せて口元に笑みが浮かぶ。
祝、米寿、のメッセージカードもたくさんもらった。孫たちの力作だ。
それらを眺めていると、なんとなく気配を感じて顔を上げる。
あの子が、いた。
死にかけてから一度も会っていなかった。あの時は幼稚園児くらいの年だったが、今は小学生くらいの年齢になっている。
「やあ、来ると思ったよ。久しぶりだね」
「泪、しわしわのおじいちゃんになったね」
「ああ、君のおかげだ。ありがとう」
「今日、動かなくなるよ」
女の子が無表情のままそう告げる。なんとなくそんな気がしていた。何だろうな、本当にただの予感なんだけど。だからこうして柄にもなく写真を広げて今までの人生を振り返ったりしてたわけだが。
「ずっと動き続けることも、できるよ」
幼い少女だというのに、まるで強大な敵を前にしたレベル1の勇者のような気分になる。殺気立っているわけじゃないのに、ピンと張り詰めた空気だ。この子との問答は、間違えてはいけない。
「いや、いいんだ」
「いいの?」
「動かなくなる時がきたんだよ。雀の時に教えただろう? それにね。楽しみでもあるんだ」
「動かなくなるのが?」
「奥さんが病気のせいでだいぶ早く死んじゃってね。夫婦で過ごした時間がたった15年しかなかった。天国で50年くらい待たせちゃってるから、会いに行くのが楽しみなんだよ。いい加減、寂しいしね」
「……ふうん」
相変わらず、納得しているのかしていないのかわからない顔だ。しかし今日はどこかに行ったりせず、そのままそこにいる。一枚の写真を手にしてじっと見つめる。
「これは何の写真?」
「ああ、それは家族旅行だ。伊豆に行ったときだね、3番目の末っ子がはしゃぎすぎて階段から落ちて骨折したっけ」
「これは?」
「長男の運動会だ。初めての運動会で俺の方がテンション高くて、カメラを新しいの買ったっけ」
そうして次々と写真を見る。これは、これは、と聞かれ一つ一つ説明していった。
そうして、夜も更け。
静かに座椅子に座る彼を見て、少女は写真をテーブルに置いた。これは、と聞いても返事がない。わかっている、当然だ。
今、彼は動かなくなったのだ。
目元と口元には笑い皺が出来ている。よく笑う人生だったのだろうと思う。
近寄って、彼の胸に耳を当てる。
「……うごいて、ないね」
そう呟くと、彼から離れてその場を後にする。
「おやすみ、泪」
END
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