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「これ、陽菜から山崎さんに」
彼女の葬式が終わり、出勤した桜木は
始業前の休憩スペースに俺を呼び出し、
見覚えのあるスケッチブックを手渡した。
開いた俺の目に鉛筆で書かれた文章が飛び込んで来た。
『お兄ちゃんへ
あの日はデートしてくれて嬉しかったです。
東京を案内してくれて嬉しかったです。
でも絵のモデルになってくれたことが
一番嬉しかったよ。
実はお兄ちゃんが引き受けてくれるまで
十人ぐらいに急いでるのでって断られてたんだ。
だからお兄ちゃんがいいよって言ってくれて
本当に嬉しかったんだよ。ありがとうね。
あと、また会えるかわからないから、
最後にひとつだけお願いがあります。
お姉ちゃんと仲良くお仕事して下さい。
お姉ちゃんはちょっと不器用なところも
あるけど、一生懸命なひとだから
大目にみてあげて下さい。
よろしくね。
陽菜より』
俺はスーツのポケットからハンカチを差し出して、
声もなく泣き出した桜木に渡した。
「あのお兄ちゃんに渡すまでは
見ないでねって言われていて」
桜木はハンカチを受け取って顔を覆った。
肩が小刻みに震えている。
心配そうに遠くで見ている飯田課長と木村に
俺は目配せした。
二人は顔を見合わせると静かに
オフィスへと戻って行った。
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