旦那たちの愛を見届けろ/1

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旦那たちの愛を見届けろ/1

 妻は知らない。夫たちがペア組んでいて、お互い好きと言って、キスをする。そんなBLなルールがあるとは。ただのかくれんぼだと信じ切っている。  光命、焉貴、月命、孔明のそれぞれの瞳と脳裏に同じ数字が浮かぶ。  十六時十二分十六秒。あと一時間十分五十九秒――。  一組の持ち時間、約十四分十一秒。  無防備に自分たちの元へ戻ってきた颯茄に、真意を隠すためのニコニコの笑みで、月命は平然と話しかけた。 「それでは、次は颯が鬼です〜。僕たちが隠れますから、探してください」  妻は何も疑わなかった。 (そうだね。さっきは見つかっても、どうしてだかわからないけど、鬼にならなかったからね。だから、今度は自分が鬼だね)  颯茄は素直にうなずいた。 「はい」  のんきな妻を置いて、夫たちの中で、駆け引きが密かに始まる。最初から一人ずつ隠れるのではない。相手と一緒にだ。  しかも、好きと言って、キスをするのである。作業的にするのでは、愛がない。そうなると、自然と言わせる。もしくは伝える。そういうムード作りが必要となる。  瞬間移動は相手を一緒に連れて行くことができる。妻がカウントし始める時が勝負の時だ。これに出遅れたら、相手に先手を取られてしまう。  颯茄が大きく息を吸い、 「じゃあ、数えます」  夫たちに一斉に緊張が走った。男たちの告白とキスタイムの幕開けが迫る。妻の唇が動こうとした。 「い〜ち――!」  誰かが誰かを一緒に連れて、瞬間移動で煙よりも早く消え去った。ポツリ、鬼の妻が一人、玄関ロビーに置き去りになったのだった。 「早っ!」  見事なまでに総隠れ。妻の驚き声が静かになった玄関ロビーに響き渡った。  ただのかくれんぼだ。そんなに本気でやることなのかと、何も知らない妻は思い、冷たい風がヒュル〜と、深緑のベルベットブーツの前を吹き抜けていった気がした。  颯茄が姿を消すと、玄関ロビーには誰もいなくなった。だが、一人戻ってきた人がいた。それは張飛だった。これから繰り広げられるであろう愛の争奪戦を尻目に、彼は面白そうに微笑む。 「俺っちは、みんなに伝えてるっすから、誰もパートナーがいないっす」    二百四十センチの背で、つるし雛に手を伸ばし、ポンとボールを投げるように揺らしながら、物思いにふける。  漆黒の髪を持つ男――孔明とは長い付き合い。友だとずっと思っていたが、いつの間にか愛に変わっていたのだ。帝国一の頭脳を持つ男の罠にはめられたのかもしれない。しかし、悔しいのではなく、心に喜びがほとばしるのだから、あの男の策は芸術に値する。  この風変わりな結婚にもすぐに馴染めるようにしてくれたのかもしれない。その証拠に、自分は全員に好きと言って、キスまで交わしている。  あの男は嘘をついている。自分はあの男と話す時はいつもそう身構えている。結果が出てしばらく経つと、やはり嘘なのだ。でもそれがあまりにも鮮やかな手口で、怒るどころか感心するばかりだ。  あの男はもう一人好きな男がいて、明智の婿養子になったのだ。だから、この隠れんぼの条件を満たしていないのは不自然。あの男のことだ。罠を幾重にも張り巡らせ、他の男たちの愛の言葉もキスもほしいままにしているだろう。それをしていないなど、おかしい限りだ。  そして、この結婚をスムーズにしてくれている人がもう一人。それは妻の颯茄だ。彼女は最初、自分のことは好きではないと思っていたらしい。それは人伝に聞いた。それなのに、結婚することが決まると、そんな素振りも見せず、きちんと話し、愛する努力をしてくれたのだ。  彼女は優しい人だから、人より傷つくところが多い。それを守っていきたい、それでいいと思う。守る夫は十人もいる。一人ではない以上、好きな順番というのはどうしても出てくる。それならば、彼女が一番望んでいる人を優先してそばにいるようにして、いざという時は自分が力一杯守るのだ。いつでも動ける場所から見ていて――  つるしびなのような飾りを弄ぶのをやめて、張飛はあたりを見渡した。 「どこで時間潰しをするっすかね?」   地球一個分もある家で、いくらでも隠れるところはある。しかし、妻が見つけづらいところは避けよう。張飛はすうっとロビーから消え去った。
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