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暗闇の猫
ガヤガヤと夜にも関わらず明るく、騒がしい。そんな街の、ある居酒屋で男が二人話していた。
「また出たんだってな」
「なにが?」
「バカ、知らねぇのかよ。黒猫の話」
「黒猫ぉ?」
「はぁ……ほんっとにお前は、世間知らずだなぁ」
「うっせぇよ、んで?その猫がどーしたんだよ」
「猫じゃねぇよ、そういう名前で呼ばれてるだけだ。バケモンなんだよ」
「バケモン?なんでぇそりゃ」
「最近ここの東京で、連続殺人事件が起きてんだよ。それも酷い殺され方をしてる。ソイツが黒い服と黒髪の、血見てぇな赤い目をした女で、逃げ足が速いから黒猫って呼ばれてんだ」
ふぅん、世の中は怖ぇなぁ、とあまり興味が無さそうに男は言った。
そんな男の前に、店員が来た。
「なんだなんだ?黒猫の話か?」
「おう!あ、酒もう一杯」
「はいはい」
店員と男達は顔見知りらしく、仲良さそうに笑っていた。
あ、と酒を持ってきてから、急に声を上げた店員。
「最近ここの都内にも黒猫らしいヤツに殺された人がいるらしいから、気をつけろよ」
「マジか。襲われねーように酒持ってこっかな」
「何に使うんだよ」
ゲラゲラと笑いながら男達はまた酒を飲んだ。
「でもよぉ、聞いた話じゃ結構な美人さんらしーぜ?」
「へぇー、そんな女が殺人って、やっぱ人は見かけによらずだなあ」
「俺、タイプの女の子だったら殺されてもいいかも」
マジかよ、ほんとに殺されるぞ。笑いながら他の男が言った。
すると、店員は少し真剣な顔になって、
「だが、本当に気をつけた方がいいかも知れねぇから、人目につかないとこには行かねぇようにな」
「はーいわかったよ母ちゃん」
「誰が母ちゃんだ酒ぶっかけるぞ」
居酒屋には、男達の笑い声が響いた。
数時間ほど経って、男達は居酒屋を出た。
「また来いよー」
「おう!じゃーなー」
「美味かったぜ!」
大通りを渡って、二人が別れることになった。
「俺、タクシーで行くわ」
「じゃあな」
男が帰り、残ったもう一人の男は家がすぐそこらしく、歩いて帰った。
家のマンションが見えてきた頃、もう深夜だからか、あたりを見回しても人が見当たらなかった。
点滅する電気、薄暗い道で、さっき会話した話を思い出し急に怖くなった男は、近道である裏路地に入った。
「なんなんだよ。チッ、アイツがあんな話振ってくるから……」 などと、独り言をブツブツと言いながら、暗い道を通っていく。
その時、前に人影が見えた。
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