ゆで卵

10/11
前へ
/115ページ
次へ
「え?」 予想外の言葉に聞き返す。 「なんで?何かあったの」 ちょっと食い気味に聴いてしまう。風見も驚いていたけど。 「俺さ…入院するんだ」 「入院って…」 私と風見の距離が離れる。 風見はゆで卵の半分を口に含んで、咀嚼する。何を言うの?なんで入院するの? あんた、元気じゃんか。 「癌なんだ」 冷たい隙間風が二人の足をさする。背筋が凍ったのは風だけじゃない。 風見は腹の真ん中あたりを触る。 「ここんとこ。胃ってここだよね。胃だって」 「風見…」 「ん?」 「なんで、今言うの」 喉の奥が痛む。 風見が首をかしげた。そのあとに考えたあと、 「ごめん。俺、馬鹿だから」 と笑った。 いつもより弱々しい笑顔で。
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加