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「無理して食べてない?」
夕食の時間が終わって、すべて平らげた風見がどこか苦しそうな顔をしているから聞いてみた。風見は首を横に振る。
それでも声が出ないくらいに絶えているような顔をして、腰のあたりをさすっていた。
運動していた風見の体にはすぐ変化が起きた。痩せたのはもちろん、寝ている時間が長いから腰が痛みやすい。
風見が背を向けて布団をかける。
「亜子ちゃん、帰って。暗いし…」
「でも…」
布団に手を入れて、腰をさすろうとすると風見のかたい手が私の手を払った。
「お願い。帰って…」
持て余した私の手は風見から離れてぶらぶら体の横でゆれている。
私は背を向けて帰ることにした。
病院からバスに乗って帰るのに、私は通り過ぎて坂を歩いて下りていく。
どんどん涙がこぼれていき、顔がぐちゃぐちゃなんだろう。なんども手の甲で交互に涙を拭う。
「ああ…ああ…」
もう歩けない。
坂の真ん中まで下りて、私の足は動かなくなった。そのかわりに情けないくらいに泣き声は大きくなって、誰もいないことが幸いだった。
いま風見でいっぱいで、歩けないんだ。
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