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手術当日。
私は味気のない冷凍餃子にかぶりついていた。リビングの時計を見ながら「あ、始まる」と思った。
「朝から餃子?」
怪訝な顔で母が聞く。私は答えないで、餃子を食べる。
ちっとも美味しくないんだから。
肉汁も溢れないし。
皮もモチモチしてない。
醤油を注ぎ足して食べていく。
「忙しい子ね、あんた」
母が向かいの椅子に腰掛け、頬付けをつく。
「なにが」
無愛想に聞き返す。
「泣きながら食べてるんだもん。泣くほどまずいの?」
母は素手で餃子を一個食べる。
「んー、微妙ね」
「なんで泣いているのかしらね、うちの娘は」
母はおかしそうに聞く。
「今日、大好きな人が死ぬかもしれないの」
「なにそれ。」
「手術してんのよ、手術」
「ふうん」
やっぱり他人事みたいに聞くんだな、この人。でも、両手をテーブルにつくと真剣な顔つきになった。
「亜子。お母さん、いつも言ってきたけど」
「…言わないで」
「言うわよ。今、言って欲しい言葉でしょ」
「………」
「将来、今日のことを思い出して後悔しないようにしなさい」
最後の餃子を口に入れる。
「テーブル拭いてね」
母は言いたいことだけをいって、布巾を置いて行った。
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