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「では、お話ししましょうか。これはある人から聞いた物語です。」
ブラックコーヒーを一口飲んでから澪はゆっくりと、淡々と、言い聞かせるように話し始めた。
「――あるところに、二人の姉妹が居ました。年齢ひとつ違いの二人はとても仲が良く、いつも一緒にいたそうです。」
「…………」
菜乃花は少しだけ不機嫌に澪を睨み付ける。そんな菜乃花など視界に入っていないように、澪は続けた。
「ある日、二人の両親は事故でお亡くなりになりました。いや、自害と言いましょうか。自害によって、保険金を姉妹に手渡したかったのです。」
それを聞いたとたん、苦痛そうに顔を歪めた菜乃花だったが、しかし澪はお構い無し。しかし澪も面白そうには話さずに、ただ真剣に語る。
「実は、その両親には借金がありました。クリアな金融会社にお金を借りていた分はまだどうにか出来ましたが、それと同時に借りていたらしい闇金にまでは保険金を当てることが回りませんでした。けれど姉妹は親族達にもお金を借りられる状況ではなかった。」
「…それで?」
次の菜乃花はいたって冷酷そうな表情を垣間見せる。澪はそんな菜乃花の本性を表すような顔に満足したのか、いたずらな、それでいて悲しそうな笑みを浮かべながら二の句を次ぐ。
「だから、大学生だった姉は妹が高校を卒業すると同時に妹に勘当を言い渡し、ずっと遠くの地域に行くよう計らった。妹は当時、闇金のことは知らなった。しかし勿論、それだけなら妹は天涯孤独である意味闇金の取り立てやに追いかけられるより危険です。だから、姉は妹の当時の彼氏にも協力を扇ぎ志望校でなくても、とにかく大学での勉強と家族と新たな人生と幸せを手に入れられるようにした。案の定、姉は妹は彼氏だった人と結婚し、順風満帆な生活を送っていると妹の彼氏…いや、夫を通して知りました。……それから時は流れて…その闇金会社は検挙され――恐らく薬物などにもてを出していたのでしょう――事実上、姉はもう身を粉にして、死に物狂いで働かなくて良くなりました。闇金が持ってきた仕事もしないで良くなった。」
「つまらないお話ね。」
「そうですか。でもこれで終わりでないんですよ。少しだけ続きます。」
「いえ。オチ、わかったから、もう帰りますね。」
菜乃花は一気に紅茶を飲み干そうとする。これ以上は引き留められないと感じた澪は、物語の次の展開へ行くため早口気味にこの『お話』を終わらせることにした。
「ところが、その僅か一ヶ月後に姉は投身自殺しました。だから警察はこう結論付けた。彼女はその時解放を感じるよりも限界を感じてしまった。妹想いで徹底していて、尚且つ義務感の強い姉は闇金に対しても誠実に働いていた。つまり、闇金は彼女にとって呪いであり現世と自分を繋ぐ鎖だったのではないのか、と。」
菜乃花が警察の見解を知ったその時、コトリ、とカップが机の上で愉快な音を鳴らす。
同時に、弱い笑い声が響く。
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