とりあえずパンツ穿け。

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 その時だった。船内にアラームが響き、手近のモニタが点灯した。食事を中断し、急いで表示を確認する。海部も近づいてきた。 「何か問題が?」 「デブリ警報です」  この先を航行していた貨物船で火災があり、破損した船の一部が宇宙ごみ(デブリ)となって流出したらしい。 「本船とは、およそ48時間後に遭遇する可能性があります。とはいえ、小さな破片が何個かかする程度だと思いますが」  流出予測範囲が広く、迂回も難しそうだ。私は悩んだ末、このまま進むことにした。 「眠れない?」  声をかけられ、私は照明を落としたコックピットの中で振り返った。裸の上半身が、モニタの光に照らされて浮かび上がっている。 「そろそろ遭遇のタイミングですから、今晩は起きていようと思います」 「さすがタフだな、スキナー少尉」  海部は両手に一つずつ持ったタンブラーを掲げて見せた。 「コーヒー入れてきたよ」 「ありがとうございます。こちらへどうぞ」  副操縦席に海部を座らせ、二人でコーヒーを飲む。 「考えたんだけど、ヌーディストビーチの近くで暮らすのもいいよね」 「唐突に何言ってるんですか……」  海部は、警報が出てからぴりぴりしている私を励ましに来たのかも知れない。  正直、セレニティ4が大破する可能性は低い。万が一航行不可能な状態になったとしても、外部の救助が待てない距離ではないとも思う。  ただし、それは最終手段として宇宙服を着る選択肢がある場合の話だ。  私は海部を見た。彼は人類の良心、人類の宝だ。妙な性癖こじらせやがって……と思うときもあるが、私は彼を助けたいし、守りたい。  海部は私の視線に気づいた。 「ジェイン、どうした?」  私が口を開きかけたとき、アラームが鳴りだした。 「衝撃に備えて!」  叫ぶのと同時に、船体に横揺れが走った。数秒後、モニタの表示が変化する。 「冷却装置が破損したらしい」  海部がモニタを見て言った。アラームが鳴りやんだのを確認し、私は席を立った。 「船外に出て確認してきます。ドクターはここにいてください」 「ジェイン? 待て――」  待っている暇は無い。小型宇宙船のパイロットは、エンジニアも兼任なのだ。  私はハッチの前まで移動すると、準備していた宇宙服を手早く身に着けた。海部が後を追ってきた気配があったが、そのまま二重ロックを抜けて宇宙空間に出た。命綱(テザー)のフックを船体のワイヤにかけ、冷却装置の方に移動しながら被害状況を確認する。  予想通り、デブリの数は多くなかったらしい。セレニティ4の表面に、傷はほとんど見られなかった。だが、冷却装置だけは別だった。外殻がはがれ、金属性のポンプの一つが大きくえぐられている。ポンプは4つあるから、すぐに困ったことにはならないだろう。修理できるに越したことはないけど……  被害箇所をよく見ようと身を乗り出したとき、耳もとでアラームが鳴りだした。  次の瞬間、私の体は暴力的な力で船から引きはがされた。
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