第1軒 思い込みの思念

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第1軒 思い込みの思念

 俺の名前は熟納来太、しがない記者である。最近は心霊や超常現象にまつわるネタを集めて記事を書いているが目新しい情報がなく困っていた。心霊企画の締め切りは1カ月後、まだ少し期間があるとはいえ他の企画の取材もある。うかうかはしていられない。  ネットにはありふれた内容の怪談話がほとんどで特集に組み込んでもあまり世間から注目はされないだろう。もっと危ない誰も経験したことがないような怖い記事、それが俺が書きたいものだ。そうでなければ面白くない。というより俺のヴォルテージが上がらない。  そういえば自分自身で実体験すれば感覚で記事が書けるんじゃないか。よく企画で事故物件に住む人とかいるしよーし俺もやってみるか。そうして俺はホームページで住宅サーフィンを始めた。やはり都心に近く駅に近い物件ほど高く、離れるほど安くなっていた。だが、事故物件かどうかは分からない。相場は大体6~7万円ほどだった。どれも似たような物件が多く事故物件を当てる方が難しそうだ。 コーヒーを飲みながらため息をついていると事務所のドアが開き 誰かがフロアへ入ってきた。 「あれ~、ウレちゃんため息ついてどうしたの?心霊企画 上手くいってないのかな?」 どうやら見られていたようだ。白髪混じりの長身の男性、カーディガン を羽織り白のちょび髭が印象的だ。 「あ、すいません編集長。情けないところお見せして」 「いいよ、いいよ。また、パワフルなネタ期待してるから」 そう微笑みながら肩をぽんぽんと叩いた。 落ち着く、この人は新野幸成編集長。とても陽気で優しい性格 から人望も厚い。 「そういえば面白い噂話を聞いてね。ここから2km先の兼倉駅 という無人駅があるんだけどね。その近くに光物件っていう 不動産があるらしいんだけどどうやら格安物件ばかりを扱って いる訳あり店みたいでぜひウレちゃんに調べて貰えないかなって 思うんだ」
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