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おばあちゃんお手製の筑前煮と、豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたしが食卓に並ぶ。
お母さんは手を合わせて「いただきます」と言い、ご飯に取りかかった。
「マドカ、今日学校はどうだった。50メートル走のタイム測ったんだっけ?」
「うん、ばっちり。8秒9だよ。」
「やった、すごいじゃん!一所懸命練習したもんね。」
お母さんはご飯を食べながらハイタッチの仕草をする。2人で「イエーイ!」と手を合わせた。
「そうだ、今日は音楽もあったわよね。」
お母さんが今度は筑前煮の里芋を頬張りながら、「服部先生は相変わらず?」と聞いた。服部先生とはかなりクセの強い50代くらいの女の先生の事だ。
「今日もすっごく機嫌悪かった。男子に髪型の事イジられたらキレてさ。」
「キレた?」
「え、ああうん。すっごく怒ってさ。だったらあんなキノコみたいな頭にしなきゃいいのにね。」
「私もちょっと見てみたいわ、キノコ頭。」
お母さんはどんなに仕事が忙しくて大変でも私の学校での出来事や行事の事を細かく覚えてくれ、こうして話を聞いてくれる。50メートル走8秒9というタイムもおそらくちゃんと覚えてくれているだろう。
子供ながらに凄いと思う。
だって・・聞いて驚くなかれ。お母さんの仕事は日本一レベルの高いT大学の准教授なのだ。
専攻は確か・・国際経済学。
カナダ政府の金融政策と私の50メートル走のタイム。あまりにもスケールが違いすぎる2つの事柄をちゃんと頭にインプットして、お母さんは研究者の顔と母親の顔をきちんと使い分けてるんだ。もちろんリスペクトしてる。
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