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『マドカ。お父さんな、好きな女性が出来たんだ。』
最後に二人きりで行った水族館。仲良くつがいで歩くペンギンを見ながらお父さんが言った「好きなひと」とは、お母さんの事ではなくもちろん私の事でもなかった。「どうしてお母さんと離婚するの?」という私の問いに対しての、実に簡潔な答え。
テレビのワイドショーでやたらとバッシングされている不倫ってやつをお父さんはしていたのかもしれない。それでもなぜか私はお父さんを責める気持ちにはならなかった。
お父さんはとても優しくて頭が良い人だったから。
きっと何か理由があって、仕方がないことなんだって、年齢の割に賢しい私は自分に言い聞かせた。
「そっか、じゃあその人と幸せにね。」
—そして、私は作り笑いを身に付けた。
大人になるって、とどのつまりはそういうことでしょう。
胸の奥の痛みは忘れてふりをして
あの日食べたパンの味も忘れたふりをして。
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