精霊の里 ~時が止まった町~

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~ 終着駅へ ~ 私は 友人の誘いもあって 三重の山間の町に出かけることとなった。 私のいるところは終着駅だよ、と、彼女は言った その言葉は、一瞬にして私を虜にした 私は 胸躍らせ 桑名(西桑名)から出発する北勢線に乗った 一時間に一本くらいしかない電車である なぜだか 終着駅という響きだけでワクワクと胸が高鳴り 北勢線の黄色い電車がとてもいとおしくなってしまう 車内の幅が狭い 762ミリメートルの特殊狭軌でナローゲージというのだそうだ とても珍しいレールの幅らしい それが レトロ感いっぱいの雰囲気を醸し出している 電車は街を離れ 山の方に向かっていく その電車には冷房もなく窓は開け放たれていた 今時 冷房なしってある? 涼しい風はわずかにあるけどさ 山の間を通るその電車の窓を 脇に生える木々の葉がパタパタと音を立てて当たる ワクワク感が次第に不安に変わる 本当にこの先に町があるの? どんなにうら寂しいさびれた街なのだろうと心配になってくる。 そんなところに 彼女は本当に住んでいるのだろうか 住めるところなのだろうか そんな不安をよそに電車は襲い掛かりそうな木々の間を 当たり前のように通り過ぎていく が! そんな木々が過ぎると パッと視界が広がった 田んぼや畑の間に 家がちらほらと そして終着駅。 終着駅のあるその町は 普通の街だった ちょっと寂しいけれど 駅の周りには何もないけど 駅からすこし離れたところには たくさんの家があった 私は、 多分おそろしく緊張していたのだと思う 思いっきり息を吐いた
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