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スーサイドリスト 「エピローグ」
後戻りなんて不可能だ。行きだけの切符片手に必死になっている。
あんたのためになんて偽善の言葉で説明したくない。
きっと全部が突き動かされてはじまっていた。憐れすぎるくらいに無様な姿であいつは私を抱きしめた。ばかでどうしようもなく惨めで、逃げられないほど真っ直ぐだ。
厄介な女を抱え込んで、それが一番幸せだと思い込んでいる。どうしようもない男で、どうしようもない馬鹿だ。
悴んだままの指先で、奪うように抱きしめられた。
気持ち悪いと笑ったら、馬鹿みたいに泣けた。あんたの前でしか泣いたこともないって言ったら、あいつはきっとまた気持ちが悪い男になるだろう。素直じゃない女が、感情の裏返しのようにまた気持ち悪いと呟いた。
あいつはたぶん、気付いている。『気持ち悪い』が、この妙に甘ったるいクソみたいな感情の表現なのだ、と。
ただの好意でいるには汚すぎた。ねえ、いっぺん死んだら、あんたの横で笑えんのかな。
安い指輪に、震える声で、愛を誓った。ばかだ、私。あんたのそばで、生きてみたいよ。
——春哉
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