スーサイドリスト 「殺人級のラブコール」

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混乱したように慌てる朝佳が店員を丁寧に引きはがしてから、俺に耳打ちする。 「こんなもの、なくったっていいの。これ以上私にお金かけないで」 懇願のような言葉に、一気に胸が絞られてしまった。 そんなことを気にさせるために来たわけじゃない。とことん伝わらないから、いっそ呆れてしまいたかった。 朝佳はどこまでも自分を押し殺して、それが普通の事だと思っている。 もっと俺を頼ればいい。 「お前を甘やかして何が悪いんだよ」 ここにお前を甘やかしたくて仕方がない男がいるだけだ。憚らずに口に出せば、朝佳が黙り込んだ。 勝手に決定することにして店員に声をかける。 「すみません、ここに置いてるので一番高いペアリングって……」 「待って、一番、一番安いやつが良いです。一番シンプルなもの、お願いします」 俺の言葉に被せるように朝佳が叫んだ。その言葉に、店員が唖然としてからどちらに従うべきか、おろおろしている。 ちらりと横を見て、朝佳の視線とぶつかる。 「一生大事にするから、私の好きなものにして」 それが朝佳なりの甘えなら、譲歩するしかない。 ばかみたいな甘え下手に、どうしようもなく抱きしめたくなって堪えた。 一生大事にする。一生大切にする。 肺の奥底で何度も呟いてから、「こいつの好きそうなやつにしてください」と返した。
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