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「ああ、俺も大事にする」
それが、指輪よりも朝佳自身の事であることは、朝佳にも伝わっていただろう。小さく笑った顔が「素直すぎて気持ち悪い」と呟いた。
「指輪、嵌めてやろうか」
茶化しながら、止まっていた歩みを進める。あと数時間後にはまた現実に戻される。その前に少しでも今日の記憶を朝佳に刻み込んでおきたい。
最低の記憶など全部塗りつぶしてやれればいい。クソ恥ずかしいことでも、何でもできそうだ。
「教会とか?」
「はあ? え、キモいよ。わざわざ行くの?」
「ぜってえ言われると思ったわ。さすがにここではないだろ」
「まあ、そうだけど」
往来の多い駅前から離れながら、人気の少なそうな場を思い浮かべて、良く知った施設を思い出した。
頭にクエスチョンが浮かんだままの朝佳に手を出して、おずおずと握られる熱を引く。ほとんど入った記憶はないが、きっとまだ開いているだろう。突き進んで行けば、朝佳もその施設に思い当たったらしい。
「まさか、礼拝堂?」
「まだ開いてんじゃねえ? ちょうどいいだろ。俺とお前の接点の場所だし」
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