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大学の敷地内にある礼拝堂は、ほとんどの学生から無視されている。たまに空きコマの時間に眠りに来ている学生がいるくらいだ。俺自身も利用した記憶がない。
ずかずか進んで行って洋風の扉を掴めば、呆気なく開いた。誰一人いないくせにしっかりと照明が付けられている。暖色のライトが儚げに照らし出すステンドグラスは、確かに趣深いかもしれない。敬虔さの足りない俺には、よくわからないものだ。
神を慕ってもいないくせにこんなときだけここに現れる自分も可笑しい。
「クリスチャンじゃないでしょ?」
「信仰してなくても、愛の見届けくらいやってくれんじゃね?」
「あきれた」
至極まっとうな返答だった。それでも朝佳は嫌がる素振りなく俺の手に引かれて足を踏み入れる。
少し古めかしい空気がしている。ひやりとした空気の中に溶け込んだ匂いを嗅いで、ゆっくりと息を吐きおろした。真っ直ぐに歩ききって、ステージのようになっている台に上った。
ステージのちょうど真ん中付近に、譜面台のようなものが置かれている。
そこにさっき買ったペアリングが入っているボックスを置いてから、朝佳と向き直った。
自分でもばかみたいなことをやっている自覚がある。
朝佳もあるに違いない。また胡乱な目で見られて、切り替えるようにボックスを開いた。
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