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ただ一文だった。初めて連絡してきたことにも何にも触れずにただ、一言。
見つめながら、頬が勝手に笑んでいるのを知って、もう一度息を吐いた。
冬の空気に晒されて、白く立ち上った吐息は呆気なく消えて行く。
冬特有の匂いが鼻腔を冷やしている。何気ない景色に一つ、勝手に決めて、文字を打ち込んだ。
きっと、拒絶されることはないと勝手に決めつけている俺は相当現金な男だ。
「春哉」
「ああ」
朝佳が出てきたことに気付かなかったらしい。横に並んでいる朝佳を見て、すぐにスマホをポケットにしまいこんだ。
「行くか」
頷いた朝佳とともに歩き出して、マンションへと戻る。道の途中で「どこ住みたい」と聞くと、朝佳が吃驚していた。
「一緒に住むだろ」
「そ、うだけど……」
まだ少し先にはなるが、悠長にもしていられない。
朝佳もそれを知っているのだろう、すぐに「どこでもいいけど」と返して前を向いた。
大学のそばに、有名な不動産屋がある。それが、この間出逢った男の経営する店だと思い出して、意味もなく時間ができたらそこへ行こうと決めていた。
とりとめもない話を終わらせて、朝佳をリビングのソファに押し込んでから、風呂場に入ってシャワーを浴びた。
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