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まだ開店したばかりの銀行に辿り着いて、現金の振り込みを依頼する。窓口の女性が俺の提示した額を見てから身分証の提示を求めてきた。いきなり数百万を振り込もうとする大学生が居たら、怪しいに決まっている。
面倒な手続きをいくつか踏んで、ようやく解放された。500万は返済に、残りの300万はバイトをするために作った口座に預け入れた。この300万は、一生使わないと決めている。
身軽になった体で、すぐ近くにある役所へと入った。まだ若干時間がある。
既に人でごった返しているカウンター付近で目指す書類を発見して、空になった紙袋に押し込んだ。一日でこれを持ってくる俺を、あいつはほとほと呆れそうだ。
その顔ですら可愛いと思ってしまうだろう俺は、どうしようもない。
職場までの電車を待ちながら、朝佳にメッセージを送る。
“起きたか”と打っている間に“もう出た?”と連絡が来た。
あと数分で次の電車が来るのを確認して、朝佳にコールする。馬鹿な男を笑えばいい。
『……はい』
「おはよ」
『……おはよ』
その声を聞くためだけにかけた俺を、朝佳がまた呆れかえるまであと5秒。このクソ汚れた世界で、俺と朝佳は生きている。
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