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スーサイドリスト 「非日常のエモーション」
「黒木くん、先生との打ち合わせー、行って来てくれるー?」
「え、今からですか」
相変わらず人好きのする顔をして笑っている男に肩を叩かれる。書籍部のサポートに入ってまだ3か月だ。
降りかかってくる雑用をこなすだけだと思っていたが、どうやら万年人手不足らしいここでは、アルバイターも打ち合わせに駆り出される。
さすがにアシスタントとして同行することが多いのだが、木戸にそんな常識があるはずもない。
門田とは施設で会って以来、一度しか会っていない。部署が違えばこの無駄にデカいビルの中で会う確率も低いらしい。たまには飲みに誘いたいと思わなくもないが、あいつも俺も、日々に忙殺されているのは互いに理解していた。
「そう、今から~。新人さんだから、まあ、顔合わせして、入賞作品の校閲持って行ってあげて」
あっけらかんと言いながら、俺に名刺を渡してくる。黒木春哉と書かれた名刺にはしっかり役職が入れられている。
「いつの間に編集者になったんですか」
「まあまあ、細かいことは気にしない。黒木くんできるでしょ?」
「はぁ……」
気にかけられているのかそうでないのか、よくわからない。
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