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実は木戸自身は教育担当というよりも書籍部の編集長が表向きの役職だったらしい。初めて聞いたときにはさすがに引いた。あれで編集長が務まるのなら、誰でもなれそうだ。木戸があちこちから「編集長」と呼ばれているのを聞くたびに微妙な気分になったのは言うまでもない。
「ほい。これプレゼント」
「あ、りがとうございます……」
まるでゴミを放り投げるかのように、俺のデスクの上に何かが捨てられた。
木戸から流れてくる言葉に、反射のように礼を口にしてから、すでに遠ざかった男の後ろ姿を見遣った。
一体何を押し付けられたのか。
手を伸ばして袋の中を見れば、とくに包装もされていないブラックの箱が入っていた。手のひらに収まるサイズの箱を取り出して、ふたを開けた。
中には、同じくブラックの何かが入っている。それを手の上に出してから考える間も無く、既に見切れている男の後ろを追った。
何を考えているのか全く分からない男ではあるが、一つ言えるのは、この男が非常に面倒見のいい人間だということだ。
「編集長!」
「およ」
なんだその変な声は。思わず気が抜けて、走り出していた足を止める。そのまま、手に持っていた名刺入れを翳してもう一度礼を告げた。
「これ、ありがとうございます」
「ああー、ハイハイ。がんばってねえ」
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