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控えめに入っているロゴは、どう見ても安物ではない。俺の言葉に小さく笑った男が、迷わずエレベーターに入って行くその後ろ姿を見送ってから、編集室に戻った。
時刻はすでに昼を回っている。その新しい先生とやらの打ち合わせは何時からなのか、少し前に渡されたプリントを見て、言葉もなく立ち上がった。
“打ち合わせ;13:30~”
「あのクソ野郎……」
待ち合わせに指定されている場所は、ここから電車でも最低40分以上はかかる。乗り換えの時刻をスマホで検索しながら、さっき木戸彰義が乗り込んだエレベーターで1階に下りる。
センセイとのメールでのやり取りがホッチキス止めで5枚。
一枚いち枚を捲って、メールが全て俺の署名で送られていることに気付いた。
なるほど。あいつは本気で俺をメイン担当に据えるつもりらしい。作家の名前は夏目花梨。
ほぼ書籍を読む余裕すらない俺もついこの間、部内で聞いた名前だった。
新人賞をとった際、夏目花梨は弱冠19歳だったらしい。その期待の新人を誰が担当するべきなのかはかなり議論が白熱していた気がする。
編集長に一任すると決められていたところまでは覚えているが、どうしてこうなった。
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