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「黒木か」
「ああ、門田」
「めちゃくちゃ急いでるな」
「ああ、ちょっと打ち合わせ」
「へえ。誰?」
「夏目花梨? 初日で遅刻寸前」
「夏目?」
「わるい、また今度」
茫然とする門田を置いて、開きかけのドアに走る。4分後の電車に乗ることができれば、何とか間に合いそうだ。
ただそれだけを考えて、がむしゃらに足を動かす。菓子折りも何もないが、とりあえず待ち合わせのカフェで何かを奢ればいいだろう。
プロフィールを確認して、夏目が実は俺と同じ歳であることを知った。
本当に俺で良いのかと疑問に思いながらも階段を駆け上がって、来ていた電車に乗り込む。とりあえず間に合った。息切れしている俺を、横のリーマンが哀れそうな顔で見ている。お互いお疲れ様です、本当に。
流れる景色を見ながら、これからのことを整理して、結局会ってみなければ無意味だと考えを切り上げた。
時間にはぎりぎり間に合う。資料として引っ掴んだ作品をぱらぱらと確認しながら、スマホで“夏目花梨”を検索した。
大きな賞を取る前から、あちこちで小さな賞をもらっていたらしい。それも全て学校推薦になっているから、本人はあまり小説家を志望していないのかもしれない。
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