スーサイドリスト 「非日常のエモーション」

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今更に会議の内容を思い返す。とにかく本人に闘争心のようなものを感じないのだと。小説家としてやっていく気持ちもなさそうなお嬢様が夏目花梨だと、そんな話だった気がする。 俺にやらせたいことが何だったのか、すぐに理解して、なおさら適任ではないと思う。それでも任せられたら仕事だ。 辿り着いたのは、全室が個室になっていることが売りのカフェだった。こんなところを指定したのはもちろんあの木戸だ。げんなりしつつ向かって、目の前にいる店員に声をかけた。 「13:30からで予約していた黒木です」 なぜか予約名まで俺の名になっている。用意周到すぎて眩暈がしそうだ。にっこりと笑っているマネキンのような女の後ろについて部屋に入れば、すでにそこへ来ていたらしい女が立ち上がった。 「こんにちは」 対人関係は、第一印象で決まるとはよく言ったものだ。白っぽいレースのワンピースを着たその女は、どこからどう見てもお嬢様のような感じだ。まるでこの世の悪意など知らなさそうなその顔は、よく男に好かれそうだった。 これでストーカーに困っていると泣きつかれれば誰一人疑うことなく夜道を助けに走るだろう。そんな儚い印象の女だった。 木戸がビジュアル的にも売って行きたいと言うだけはある(かんばせ)を見ながら、同じように「こんにちは」と返せば少し安堵したような表情を作られた。
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