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「遅れてしまって申し訳ありません。黒木と申します」
少し前に木戸から渡された名刺入れから、これまた木戸に渡された名刺を取り出して差し出す。
名刺を渡されることに慣れていないのだろう。おろおろと左右を見た夏目が、そっと俺の名刺を受取った。
「ごめんなさい、名刺は持っていなくて……。夏目花梨と申します」
礼儀正しく呟いて、大切そうに名刺を抱えている。新人作家には無いと思っていたが、傲慢な人間ではないらしい。確かに闘争心などなさそうだと心の内で苦笑しつつ、夏目に座るように促してから目の前の席に座った。
「今日はよろしくお願いします。実は私も年が同じなんです。なのであまり畏まらないでください」
「えっ、ええ、そうなんですか。今年21ですか?」
「はい」
「ええっ黒木さんはものすごく落ち着いてますね、驚きました」
人見知りしそうな雰囲気ではあるが、すぐに打ち解けてくれたらしい。世間話を織り交ぜながら会話を続けていれば、すぐにペースが馴染んできた。俺の周りにはまず居ないような純粋な人だ。嘘を吐けなさそうな瞳がこちらを見て、楽しそうに笑っている。
資料を片手に説明を加えていれば、すんなりとこちらの提案を理解される。新人とは思えぬような呑み込みの速さだ。都内でも有数の女子大に通っていると聞いたから頭も良いのだろう。
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